PhotoshopやIllustratorを25年以上使い続けてきた私が、Adobeのサブスクリプションを解約し、Affinityを中心とした制作環境へ移行しました。
Adobeが嫌いになったから手放したのではなく、25年間使い込んできたからこそ、今の自分の仕事に必要な道具と、そうでない道具の境界線が見えてきたからです。
本記事では、2025年秋に完全無料化・統合されたAffinityの現在地を踏まえ、実際に乗り換えて分かったリアルな使い心地、フォントや過去データの扱い、そして「Affinityで十分だった場面」と「Adobeを残した方がよい場面」の境界線を、一人の生活者・実践者の視点から率直にお伝えします。
1. 25年使い続けた私が、なぜ今Adobeを手放したのか
Adobeが嫌いになったのではなく、「今の仕事に必要なもの」が見えてきた
私はこれまで、デザインやWeb制作、パッケージや販促物の作成において、四半世紀にわたりAdobe製品と共に歩んできました。Macの黎明期からPhotoshopやIllustratorを開き、キーボードのショートカットを指先が勝手に叩くほど、身体の一部として馴染んでいた道具です。
そんな私がAdobeを手放した理由は、「Adobeがダメになったから」ではありません。
むしろ逆で、長年使い倒してきたからこそ、「今の自分の制作スタイルに対して、Adobeという器が大きすぎないか?」という素朴な疑問に突き当たったからです。
かつてのように大規模な商業デザインチームで何十人ものスタッフとデータをやり取りしたり、最先端の印刷技術に合わせた厳密な色校正を突き詰めたりする日々から、現在は自社のブログ運営、Webサイトの改善、SNS画像、そして自社商品のパッケージやラベル作成といった「個人の手で完結する制作」へと軸足が移りました。
その環境において、Adobeのサブスクリプション費用を払い続け、数え切れないほどの多機能メニューを抱えた重厚なアプリケーションを動かし続けることが、本当に自分にとって心地よい選択なのか。
「世間の業界標準」ではなく「自分の手の平のサイズ」に道具を合わせ直す時期が来たと感じたのが、解約を考えた一番のきっかけでした。
毎月の費用以上に怖かった「習慣・フォント・過去データの喪失」
とはいえ、解約ボタンを押すまでにはかなりの葛藤がありました。
長年使い慣れた愛車を手放すような、何とも言えない落ち着かない感覚です。
特に頭を悩ませたのは、コストのこと以上に次の3つの「心理的な壁」でした。
- 身体に染み付いた操作感の喪失: 25年間で培ったショートカットやメニュー配置の癖をリセットできるのか。
- Adobe Fontsへの依存: Webや印刷物で多用していた高品質なフォントが使えなくなることへの不安。
- 膨大な過去データ(.ai / .psd)の行方: 過去に作った大切なデザイン資産を開けなくなるのではないかという恐怖。
「不便になって後悔したらどうしよう」「結局Adobeに戻ることになるのではないか」という不安を抱えながらも、私は一度自分の制作環境をリセットし、Affinityへの本格移行を試してみることにしました。
2. 実際にAffinityへ乗り換えて分かった「良かったこと・戸惑ったこと」
【実感】ブログ・Web・自社プロダクトの制作なら「これで十分」だった
結論から言うと、私の用途(ブログのアイキャッチ、Webバナー、SNS投稿画像、自社商品のシールや説明書など)においては、「日常的に行っていた作業の多くは、Affinity上で違和感なく完結した」というのが率直な実感です。
Photoshopで行っていた写真の切り抜きや色調補正、Illustratorで行っていたロゴやアイコン、レイアウトのベクター作成など、日常の制作はAffinity上でスムーズに進めることができました。
特に起動の速さや動作の軽快さは心地よく、Adobe関連の常駐アプリや管理機能を含めた環境から離れたことで、パソコンまわりがすっきりしたように感じました。
【戸惑い】手の癖とフォントの置き換えに必要だった時間
もちろん、移行初日からすべてがバラ色だったわけではありません。
最初の1〜2週間は、明確な「戸惑い」と「慣れのための時間」が必要でした。
一番苦労したのは「指先の反射」です。
例えば、Illustratorで無意識に使っていたショートカットキーや、アンカーポイントの操作感、選択ツールの挙動などがわずかに異なり、作業中に「あれ?」と手が止まる場面が何度もありました。こればかりはショートカットを自分好みに再設定し、1〜2週間ほど実作業をこなす中で身体を馴染ませていくしかありませんでした。
また、Adobe Fontsの代替についても工夫が必要でした。
解約とともにAdobe Fonts経由で同期していた書体は使えなくなるため、私はシステム標準のフォントやGoogle Fonts(Noto Sans JPやOutfitなど)、そして自前で購入していた定番の商用フリーフォントを中心にワークフローを再構築しました。
最初は選択肢が狭まったように感じましたが、実際に制作を続けてみると、日常で使うフォントは数種類に絞られるため、今では全く不自由を感じていません。
【データ互換】過去の.ai / .psdデータはどうなったか?
公式発表によると、AffinityはAI、PSD、PDF、SVG、TIFF、IDMLなどの既存形式に対応しています。
私自身も過去の .ai や .psd データを実際に開いて検証してみましたが、多くのファイルはレイヤー構造を保ったまま開くことができました。ただし、ファイルによってはAdobe独自のアピアランス効果やテキストの折り返し設定など、レイアウトや効果を確認し直す必要がありました。
そのため私は、「過去の大切な完成データは、Adobe契約が残っているうちにPDFや高解像度PNG、SVGとして書き出しておく」という事前対策を行いました。
これから移行を検討される方は、解約前のフォント・データ確認手順に過去の重要データを汎用形式でバックアップしておくことを強くおすすめします。
3. 2026年現在のAffinityとCanvaのリアルな立ち位置
統合・完全無料化された新世代のAffinity
Affinityを取り巻く環境は、ここ数年で劇的な進化を遂げました。
2024年のCanvaによる買収を経て、2025年10月には写真編集(旧Photo)、ベクターデザイン(旧Designer)、ページレイアウト(旧Publisher)の3機能が1つのプラットフォームに統合された「all-new Affinity」が発表され、無料のCanvaアカウントから完全無料(Free forever)で利用できるようになりました。
| 項目 | 以前のAffinity | 2026年現在のAffinity |
|---|---|---|
| 価格体系 | 各アプリ買い切り(約1万円〜セット購入) | 基本機能は完全無料(Canvaアカウント利用) |
| アプリ構成 | Photo / Designer / Publisherの個別アプリ | 1つのアプリ内でスタジオ(機能)を切替 |
| 連携機能 | スタンドアロン動作 | Canvaのブランドシステムやクラウド連携(※) |
※Affinityのプロ向け制作機能そのものは無料で利用できます。生成塗りつぶしなどの高度なCanva AI機能やチーム向けブランド管理を利用する場合は、Canvaの有料プラン(Canva Pro等)との連携が必要となります。
かつては「有料の買い切りソフト」として購入のハードルがありましたが、現在では「誰でも初期費用ゼロで、本格的なベクター・画像編集環境を試せる」という、非常に試しやすい環境になっています。
アプリを行き来せずに「ベクターと写真」を往復できる快適さ
使っていて特に便利だと感じるのは、アプリケーションを切り替える必要がない点です。
従来のAdobe環境であれば、写真をPhotoshopで補正して保存し、それをIllustratorに配置して文字を乗せる……というように複数ソフトを行き来するのが日常でした。
しかし現在の統合Affinityでは、キャンバスを開いたまま、ワンクリックで「ベクター編集モード」から「写真編集モード」へとワークスペースを切り替えることができます。
さらに2026年現在では、Affinity内でCanvaのブランド資産(Brand System)を活用できる機能や外部制作ツールとの連携など、単なる「旧来ソフトの代替」に留まらない拡張も進んでいます。このシームレスな操作感は、個人で小回りの利く制作を行う上で非常に大きなメリットとなっています。
4. 私の結論:Affinityが向いていた使い方・Adobeを残した方がよかった使い方
25年間Adobeを使い、そこからAffinityへ完全に乗り換えた私の結論として、「どちらが優れているか」という二元論ではなく、「どのような制作スタイルならAffinityが向いていて、どのような状況ならAdobeを残すべきか」という境界線を整理しました。
Affinityで心地よく制作できた場面(向いている使い方)
私の場合、以下のような用途ではAffinityへの移行後も大きな不満はなく、制作の身軽さと手軽さの恩恵を十分に感じることができました。
- 個人事業主・フリーランスの一人完結ワーク: 外部とネイティブデータ(.ai/.psd)の直接やり取りが発生しない制作。
- ブログ・Webサイト運営: アイキャッチ画像、バナー、解説図解、SVGアイコンの作成。
- SNS発信・マーケティング: Instagramスライド、XやThreads用の図解、YouTubeサムネイル。
- 自社商品の販促物: パッケージ用シール、POP、チラシ、簡易的な商品カタログのPDF作成。
- 制作ツールの固定費を見直したい方: 毎月固定で発生するソフトウェア維持費を最適化したい場合。
無理に移行せずAdobeを残した方がよい場面(残すべき使い方)
一方で、以下のような条件に当てはまる場合は、無理にAffinityへ移行せず、Adobe Creative Cloudを維持する方が、移行に伴う負担を抑えられるでしょう。
- 制作会社やクライアントとの共同作業: 相手から
.aiや.psdでの納品・レイヤー保持が厳密に指定されている場合。 - Adobe特有の高度な機能・プラグインが必須: 商業印刷所が指定する厳密な出力プロファイルや、特定の自動化スクリプトに依存している場合。
- 動画や出版を含む総合的なエコシステムを利用: Premiere Pro、After Effects、InDesign、Lightroomなどを日常的に連携させて業務を回している場合。
- 移行に伴う学習・検証コストをかけられない環境: 操作感の変更やフォントの置き換えに時間を割く余裕がない繁忙期など。
5. まとめ:道具は「世間の標準」ではなく「自分の手の平」に合わせて選ぶ
道具を変えるということは、単にお金を節約することだけではありません。
「自分が日々どんなものを作り、何に時間を使っているのか」を見つめ直す良いきっかけになります。
25年間使い続けたAdobeを手放したことで、私自身は「自分にとって本当に必要な機能は何だったのか」を再確認でき、毎月の固定費と精神的な身軽さを手に入れることができました。
Affinityが完全無料化された2026年の今、もしあなたが「毎月のAdobe代に少し疑問を感じているけれど、乗り換えるのが怖い」と感じているなら、まずはAdobeを契約したまま、並行してAffinityをインストールして触ってみることをおすすめします。
世間が言う「業界の標準」に無理に合わせる必要はありません。
あなたの手の平のサイズと、日々の制作スタイルに最も心地よく馴染む道具を、ぜひ選んでみてください。
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