- 見直した理由: 長年利用してきたAdobe Creative Cloudを解約し、固定費と制作環境を維持する負担を減らして別の制作体制への移行を進めています。
- 判断の基準: 「プロか個人か」という肩書ではなく、納品形式や共同作業の要件、代替手段の学習コスト、利用頻度から契約の必要性を判断します。
- 移行の現状: 動画編集では以前から利用していたDaVinci Resolveを活用。AIや自動化スクリプトによる代替については、用途ごとに実用性と限界を見極めながら検証を進めています。
- 解約で目指すこと: 固定費を抑えるだけでなく、ソフトの維持や操作習得に費やす時間を減らし、自分の事業や本当に取り組みたい仕事に振り向けることです。
1. なぜAfter Effectsの解説を書いている本人が、Adobeを見直したのか?
このブログ「036Factory」で、検索から多くの読者に訪れていただいている記事の一つに、After Effectsのシェイプマスク変換やPremiere Proの音声・映像同期といった、Adobe製品の具体的なトラブルシューティング記事があります。
日々、映像編集の現場でエラーや複雑な操作に立ち往生し、検索してたどり着いてくださるクリエイターの皆様には、心から感謝申し上げます。
しかし、率直にお伝えしなければならない事実があります。
その解説記事を書いている筆者自身は、長年利用してきたAdobe Creative Cloudを解約し、別の制作環境への移行を進めています。
決して「Adobeがダメになった」とか「全員が解約すべきだ」と主張したいわけではありません。PhotoshopもAfter Effectsも、現代のデジタルクリエイティブを築き上げてきた素晴らしい業界標準ソフトウェアです。
それでもなお、私が更新ボタンを押さずに解約を選んだのは、「自分自身の制作において、本当にこの高額な固定費と、ツールの維持に費やす時間を払い続ける価値があるのか?」という問いに、客観的な答えが出たからでした。
2. 月額サブスクと「道具の維持」に支払っていたコスト
私が利用していたCreative Cloudのコンプリートプランは、年間でおよそ8万〜10万円前後の固定費が発生していました。(※参考として、2026年時点での現行プラン「Creative Cloud Pro」は、年間プラン月々払いで月額9,080円、年間一括払いで102,960円となっています)
制作で十分な利益を上げているプロにとっては経費の一部に過ぎないかもしれませんが、個人でメディアを運営したり、自社のビジネス(私の場合は自家焙煎珈琲の工房)のために動画やデザインを作っている立場からすると、毎月確実に手元から出ていく大きな支出です。
しかし、私が本当に重荷に感じていたのは、金銭的な支出以上に「道具の機嫌を取るために奪われる時間と認知リソース」でした。
ツール維持に負担を感じていた3つの点
- 頻繁なアップデートと互換性への配慮:
バージョンアップのたびにプラグインの挙動やプロジェクトファイルの互換性、キャッシュ管理に意識を割かれる負担。 - 「操作を覚えること」への時間投資:
After Effectsの複雑な階層構造、キーフレーム操作、エクスプレッションの記述法など、「ソフトの使い方を調べる時間」が制作時間の大きな割合を占めてしまう現実。 - 契約しているから使わなければという心理的プレッシャー:
「毎月これだけ払っているのだから、Adobeソフトを使って何か作らなければ損だ」という本末転倒な思考。
道具は、自分の表現や発信を助けてくれる相棒であるはずです。しかし気づけば、「道具を維持し、道具に振り回されるために自分の時間とお金を使っている」という違和感が拭えなくなっていました。
3. 代替ソフトは、Adobeの完全なコピーではない
では、解約して困らないのかといえば、そこには明確な「境界線」が存在します。
まず大前提として、「クライアントから特定のプロジェクトファイル(.prproj や .aep)での納品を指定されている受託クリエイター」や、「制作会社でチーム全員がAdobe共通環境で作業している現場」においては、今でもAdobeの契約は業務上の必須インフラです。これを無理に解約することは推奨できません。
解約を検討できるかどうかの判断基準は、職業の肩書(プロかアマチュアか)ではなく、以下の点に尽きます。
- 制作物の納品形式や共同作業に、Adobe特有の縛りがあるか?
- 代替手段へ移行するための「学習コスト」を考慮しても、継続課金を見直す価値があるか?
私の場合、制作する目的は「受託の下請け納品」ではなく、「自社ブランド(036 Factory)の発信、YouTube動画、Webサイト、ブログの素材作成」でした。つまり、最終成果物が高品質な動画(MP4)や画像(PNG/WebP)であれば、制作過程のソフトは何を使っても自由だったのです。
| 制作領域 | 筆者が進めている現在の体制 | 実際の境界線(できること/留意点) |
|---|---|---|
| 長編・メイン動画編集 | DaVinci Resolve(以前から併用) | カット編集、音声処理、カラーグレーディングは無料版でも高度な編集が可能。ただし有償のStudio版が必要な機能や、Premiereとの操作体系の違いに伴う初期学習コストは存在します。 |
| 日常の演出・テロップ・短尺 | AIプロンプト + コード自動化の検証 | 日常的なテロップアニメーションやインフォグラフィックは、AI指示やスクリプトによる代用を検証中。映画級の高度なVFXや複雑な3D連動は依然としてAEに大きな強みがあります。 |
| サムネイル・バナー画像 | AI画像生成 + 軽量Webエディタ | 素材作成や簡易編集はAIやブラウザツールを活用。ただしPSDの高度なレイヤー構造や特定フォントの再現には制約があります。 |
過去の制作データ(.aep / .prproj)をどう扱うか
解約をためらう理由の一つが、「長年蓄積してきたプロジェクトファイルを将来開けなくなるのではないか」という不安です。
ここでは、完成動画の保存と、編集可能なプロジェクトの保存を分けて考える必要があります。
- 完成動画と必要な素材を保存する:
完成動画は、過去の成果物を再生・確認するための重要な保存資産です。ただし、書き出し済みの動画から元の編集工程(レイヤーやアニメーション)を完全に復元できるわけではありません。 - 重要なプロジェクトは、関連素材と一緒に保管する:
元のプロジェクトファイルだけでなく、使用した素材、フォント、必要なバージョン情報なども記録してアーカイブしておくと、将来の再編集に備えやすくなります。 - 再編集が必要になった場合の費用と条件を確認する:
将来どうしても元のプロジェクトを開く必要が生じた場合は、月々プランの利用や再契約も選択肢になります。ただし、契約プランによって料金や解約・再アクティベートの条件が異なるため、「いつでも最小費用で再開できる」と決めつけず、事前に公式の規約を確認しておくことが大切です。
(※参考:Adobe公式 アドビのサブスクリプション利用条件と返金ポリシー)
「いつか必要になるかもしれない」という不安だけで契約を漫然と継続するのではなく、保存すべき資産と、将来の再編集に必要な環境を整理してから判断する。これが、過去の制作資産と向き合う現実的な方法です。
4. 解約で目指すのは、単なる節約だけではない
Adobeの契約を見直して得られる変化は、年間約10万円という固定費の削減だけではありません。
① 心理的な軽やかさと作業の見直し
巨大なバックグラウンドサービスや常駐プロセスの通知を意識する頻度が減り、自分のPC環境をシンプルに保てる体感的な心地よさがあります。
② 「指示を出す側」への視点のシフト
After Effectsで細かいキーフレームを1フレームずつ微調整する作業から離れ、日常的な演出を「AIにどう意図を伝えて出力させるか」「コードでどう自動化するか」という検証へ移行したことで、「手を動かす作業」から「作品のディレクション」へと頭の使い方が変わるきっかけになりました。
③ 道具に対する納得感
「業界標準だから」「皆が使っているから」という惰性ではなく、「今の自分の発信に必要な機能だけを、自分の意志で選んで使っている」という実感は、クリエイターとしての判断基準を確かなものにしてくれます。
5. 道具に費やす時間を、自分の仕事(人生の余白)へ戻す
私にとって、動画編集やデザインソフトを使いこなすことは、人生の最終目標ではありません。
036 Factoryの原点は、ご注文をいただいてから生豆を一粒ずつ手作業で選び、丁寧に焼き上げる「自家焙煎珈琲の工房」です。
複雑なソフトウェアの操作マニュアルを読み漁り、エラー解決のために夜更かしをする時間があったなら、その時間を豆の品質向上に使いたい。あるいは、ふっと淹れたての一杯を味わい、次の企画を静かに構想する「人生の余白」に充てたい。
Adobeを見直したことで手に入れたい最も価値ある果実は、「道具に奪われていた自分の時間とエネルギーを、自分が本当に愛する本業へと取り戻す余白を作ること」でした。
まとめ:使い続ける理由を、自分の言葉で説明できるか
もし今、毎月のAdobeの引き落とし通知を見るたびに小さな溜め息をついているなら、一度立ち止まって自分に問いかけてみてください。
「あなたが今作っているその作品は、本当に毎月Adobeを契約し続けなければ作れないものでしょうか?」
もしクライアントワークで必須なら、胸を張って使い続けてください。それはプロとしての立派な投資です。業務上どうしてもCreative Cloudが必要な場合は、漫然と高額なプランを維持するのではなく、必要なアプリだけの単体プランに絞り込むなど、契約構成を最適化するのも賢い選択です。
👉 【公式】Adobe Creative Cloud 公式プラン・価格一覧をチェックする
しかし、もし自分の発信のため、自分のコンテンツのために作っているのなら、選択肢はすでにAdobeの外側にも多様に広がっています。
本連載では、PremiereからDaVinci Resolveへ移行する際の具体的な条件や、After Effectsの演出をAIやスクリプトでどこまで代替できるのかという実践的な検証結果を、順を追って公開していきます。
道具の維持に振り回される生き方を手放し、自分に必要な道具を主体的に選ぶ一歩を踏み出してみませんか。
☕ 記事の執筆・開発の合間に「普通のコーヒー」を焼いています
036 Factoryの本業は、ご注文をいただいてから生豆を一粒ずつ手作業で選別(ハンドピック)して焙煎する、小さな自家焙煎珈琲工房です。
PC作業や映像編集で加熱した頭をふっとリセットする、雑味のない「毎日飲める普通のコーヒー」を少数精鋭で焼いています。この記事が少しでもお役に立ちましたら、ぜひ一度うちの工房を覗いてみてください。
【連載目次】AI時代の脱Adobeサバイバル論
- 親記事(総論): 年間10万円のAdobe契約を見直す。解約を決めた理由と、手放せない仕事の境界線(本記事)
- 第1回(映像編): Premiere ProからDaVinci Resolveへ。サブスクを見直す前に知っておきたい移行の現実
- 第2回(モーション編): After Effectsは本当に必要か?「難解な操作」を捨て、AI代用で動かす制作の現場
- 第3回(画像・完結編): PhotoshopもIllustratorも起動しない。AI画像生成と自動化で組む「身軽な制作環境」
- 番外編(最新検証): 脱Adobeの救世主か、危うい模倣か。Rust製「Crafting Apps」13本を冷徹に見つめて分かった実務適性の現実